新入生の皆さん、琉球大学へのご入学、誠におめでとうございます。
今年度、琉球大学は、学部1587名、大学院292名、総数1879名の皆さんを新入生としてお迎えすることとなりました。琉球大学の在学生および教職員を代表して、皆さんの入学を心から歓迎いたします。また、これまで皆さんを応援し、皆さんと一緒に晴れやかな気持ちで今日の日を迎えられたご家族はじめ関係者の方々にも心からのお祝いを申し上げます。
皆さんは緊張と不安に耐えながら受験勉強に励んだ結果、見事に琉球大学に合格し、今日を迎えられたと思います。大学に進学するためには誰もが通る道とはいえ、何かを達成するために、色々なものを我慢して、ひたすら努力することは簡単なことではなかったはずです。見事に目標を達成した皆さんの努力に心からの敬意を表します。
さて、今、私は皆さんの「努力」に敬意を表すると申し上げました。しかし、ここで敢えて申し上げますと、皆さんが琉球大学に入学できたのは、皆さんの「努力」のおかげ、だけではないかもしれません。改めて考えてみると、皆さんが努力できたのは、努力できる環境にいたからだとは言えないでしょうか。皆さんの努力を応援してくれる人々に囲まれ、努力するのに必要最低限の時間や体力、経済力があったからだとは言えないでしょうか。つまり、皆さんの努力は、皆さんが持っている「特権」によって可能になったのかもしれません。そして、その「特権」は皆さんが意識して獲得した何かではなく、誰かの献身によって、あるいは犠牲の上に、知らないうちに持つようになったものかもしれません。
この社会には、さまざまな理由で、大学に行きたくても行けなかった人々が大勢います。その理由は、貧困だったり、身体や精神の状態だったり、社会の偏見だったり、とさまざまです。昨今であれば、戦争や災害のような外的要因に教育の機会を奪われている方々もいるでしょう。あるいは世界を見渡せば、「女性だから」という理由で、学問やビジネスの領域に女性を進出させない国も、いまだに存在します。つまり、皆さんには、属性に関わらず、大学に進学するという選択肢があった、ということになります。選択肢のない世界を生きている人から見ると、選択肢のある皆さんは、「自由に生きる」という特権を持っているように見えることでしょう。
どの社会にも特色ある伝統文化があり、それを、世代を超えて受け継ぐことも重要です。しかし、肝心なのは、そこに選択肢があるか、自由な選択が許されているかということです。人として正しい選択は何かを判断し、正しいと思うことを、恐れずに、自由に実行する能力を身につけるために必要となるのが「教育」です。「教育」は、人を自由にし、正しい勇気を与えてくれます。そして、皆さんはそのような「教育」の機会を得るために、琉球大学に入学されたのです。
琉球大学の建学の精神は、「自由、平等、寛容、平和」ですが、これは第16代アメリカ大統領エイブラム?リンカーンが、1863年のゲティスバーグ演説をはじめとするさまざまな演説の中で強調した思想にちなんでいます。リンカーンが琉球大学とどんな関係があるかと思われるかもしれません。実は、琉球大学は、1950年に創立し、その翌年の2月12日に開学記念式典を行いましたが、この2月12日がリンカーンの誕生日だったのです。
今日の琉球大学には、この建学の精神「自由、平等、寛容、平和」を継承して発展させた3つの基本理念があります。基本理念とは、琉球大学が大学として実現したい目標のことです。
まず一つは「真理の探求」です。これは、学問を通して、人間の本質、そして社会や自然のあるべき姿を突き詰めていくということです。
二つ目は、「地域?国際社会への貢献」です。これは、大学で学んだことを活かして、地域社会や国際社会をより良い未来へと導くということです。大学教育を受けた人は、大学教育を受けた人だからこそ果たせる、地域社会や国際社会での役割があります。
そして三つ目が「平和?共生の追求」というものです。これは、自分の自由を尊重するのと同じぐらい、自分とは異なる他者の自由を尊重し、平和を維持しながら共存するにはどうしたら良いかを考えることです。
こうした理念に基づき、琉球大学では、基本的人権の尊重や多様性の尊重、SDGs達成への貢献などに取り組んでいます。そして、琉球大学を卒業?修了するすべての皆さんが「グローバルシチズン」となれるような教育を提供することを目指しています。
「グローバルシチズン」とは、日本語では「地球市民」と訳されています。自分の半径1メートルの日常を超え、自分のいるローカルな地域が、グローバル社会や地球とどのように繋がっているかを知り、そのつながりを想像しながら生きることができる人のことです。それは空間的なつながりだけでなく、時間的なつながり、でもあります。例えば、北アメリカの先住民は、今生きている人々は、自分たちの7世代先に何を残せるかを考えながら生きる責任がある、という思想を持っています。7世代先の子孫のことを思いやりながら生きる、というのは、すごいことだと思いませんか。
琉球大学は、伝統文化に敬意を払いつつ、自由、平等、寛容、平和が尊重される未来づくりに貢献することを目指しています。琉球大学に入学した皆さんにも、琉球大学が大切にしているこれらの価値を大切に思っていただきたい、と強く願っています。
琉球大学には、多様性に富む亜熱帯の自然と、沖縄の特色ある歴史や文化の中で、個性的な研究の実績を積んできた優秀な研究者が集まっています。そのような研究者の指導のもと、皆さんには、これから卒業あるいは修了するまで、心ゆくまで学び、ご自身の成長を実感していただきたいと思います。皆さんのこれからの学生生活が、実り多いものとなりますよう、琉球大学も質の高い教育に全力で取り組むことをお誓いし、私の式辞とさせていただきます。
令和7年4月4日
琉球大学
学長 喜納 育江